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小倉簡易裁判所 昭和38年(る)19号 判決

被告人 泉昭三

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する道路交通法違反被告事件について同被告人から正式裁判権回復の申立並びに正式裁判の請求があつたので次の通り決定する。

主文

本件正式裁判権回復の申立並びに正式裁判の請求はこれを棄却する。

理由

本件正式裁判権回復申立の要旨は小倉簡易裁判所は昭和三八年三月二八日申立人に対する道路交通法違反被告事件につき罰金八、〇〇〇円の略式命令をなし該略式命令謄本を申立人の住居宛に送達し同所において申立人の使用人がこれを受領したものであるが右略式命令謄本送達当時申立人は恐喝等被告事件について小倉拘置所に勾留され昭和三八年五月一七日頃小倉拘置所に面会に来た妻から以上の事実を聞き始めて右略式命令のあつたことを知つた次第で所定の期間中正式裁判の請求ができなかつたので本申立に及んだのであるというのである(申立書中上訴権回復申立とあるも正式裁判権回復申立の誤記と認める。)

よつて按ずるに申立人泉昭三に対する道路交通法違反被告事件記録(当裁判所昭和三八年(い)第四二一七号)及び本件正式裁判権回復申立記録証人大庭シゲノの証言並びに申立人の供述によれば当裁判所が昭和三八年三月二八日申立人に対する道路交通法違反被告事件につき罰金八、〇〇〇円の略式命令をなしたこと、申立人が昭和三七年一二月一三日以降現在に至るまで別件恐喝等被告事件のため小倉拘置所に勾留されていたが当該起訴状に被告人たる申立人が勾留されている旨の記載を欠いていたため当裁判所は右略式命令謄本を申立人の住居北九州市若松区本町五丁目平和マーケツト内泉昭三宛で申立人に郵便による送達をなし郵便集配人は昭和三八年四月五日一五時四〇分頃同所において同居者内縁の妻泉こと宮崎久美子にこれを交付した上郵便送達報告書に右久美子から受取つた泉の印を押捺し書類受領者泉くに子(久美子をくに子と聞き違えたによる)と記入したこと、申立人は昭和三八年五月初め頃検察庁の罰金納付命令書が右申立人住居宛に送付されたことを小倉拘置所に勾留中の申立人に面会に来た宮崎久美子から聞き本件略式命令のあつたことを知つたことが一応認められる証人宮崎久美子の証言中右認定に反する部分は措信できない。

しかして刑事訴訟法第五四条では書類の送達に関しては裁判所の規則に特別の定めある場合を除いては民事訴訟法に関する法令の規定(公示送達に関する規定を除く)を準用するとし原則として民事訴訟法の規定に譲つているのであるが民事訴訟法では在監者に対する送達は監獄の長になすべきことを同法第一六八条で定めているのであるから勾留中の申立人に対する本件略式命令謄本の送達は申立人が勾留されている監獄の長たる小倉拘置所長宛に送達するを要すべきところ申立人の住居北九州市若松区本町五丁目平和マーケツト内泉昭三宛に送達しそこで同居者宮崎久美子に交付したものであるから右略式命令謄本は申立人に対し適法に送達されたということはできずその送達は無効であるといわなければならない略式命令の効力発生要件たる告知は適式な送達によるべきものであるからこれをもつて本件略式命令の送達があつたものとは認められないこと勿論である申立人は略式命令の取消その他何等かの裁判を求めるまでもなく罰金納付の義務なきものであるからその執行を受けた場合に執行に対する異議の申立をするのは格別略式命令に対し正式裁判の請求をする必要は存しないのであるそうだとすれば申立人の本件各申立は結局その理由がないことに帰するから本件各申立を棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判官 戸畑豊吉)

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